用語・技術解説

線量管理システム

線量管理システムにできることと注意すべきこと

1.はじめに

医療被ばくというものは、欧米と比べて、日本では患者にとっても医療施設にとってもあまり大きく意識されるものではありませんでした。ですが、東日本大震災を大きなきっかけとして、患者は自身や家族の被ばく量を意識するようになりました。医療施設側にも、ここ数年内にJapanDRLs2015・2020の公表や、2020年の線量記録・管理の法令化など、大きな変化が訪れました。そのようなの流れに乗って、線量管理システムを販売するメーカー、導入した施設もかなり増加しています。近い将来には、各施設やメーカーの枠を超えた、患者ごとの線量記録が行われることが期待されますが、今はその足場を固めるため、まずは施設ごとに適切な線量記録・管理を行う必要があります。

ここでは主に、線量管理システムができることや、運用上注意するべきことを記します。

2.線量管理システムができること

線量管理システムは確かに便利です。膨大なデータ量や慢性的な人員不足が原因で満足にできていなかったことの実現が可能です。ただし、どんなシステムもそうですが、万能ではありません。それを購入しただけで自動的にすべてのことをしてくれるわけでもありません。期待を持っていざ購入した結果、「思っていたのと何か違う」となることもあります。

それでは、線量管理システムができることとは何なのでしょうか?

簡潔にまとめますと、患者の被ばく線量の記録と、装置の管理や患者説明のための材料の提供です。
線量記録とは、文字通り、いつ・誰が・どんな検査を受けてどのくらい被ばくをしたかを後で追えるようにするものです。記録するだけであればPACSなどのサーバに画像やRDSR(線量情報が記載されたDICOMファイル)が存在すれば問題ありませんが、一覧での確認や集計には適していません。システムがあれば院内の委員会や外部監査で提出するための資料作りも楽に行えます。
装置の管理とは、記録されたデータの集計を元に、DRL(診断参考レベル)と施設の線量を比較検討し、装置のプロトコルの整理をして最適な被ばくを目指すことです。
また、患者やその家族への説明のために、患者に提供できるようなレポートを作成できるシステムもあります。そのような機能は、医師への医療被ばくに関する意識付けにも役立ちます。

次に、線量管理システムを運用するうえで、院内・部署内で注意しておくべきことを
いくつかご紹介します。

3.線量管理システムの注意点

● 担当者の決定
線量データの収集はシステムが行ってくれるとはいえ、それらの情報を思うようにまとめるには人手がかかります。ソフトによってはマスタの更新などの細かい作業も多々存在しますし、メーカーとのやり取りも必要です。また、それらのデータを活用して装置の管理を行ったり、院内の委員会なども主導したりしなければなりません。そういったことを好む方や適した方がいれば問題ありませんが、そうでない場合、日常の撮影業務に忙殺されて線量管理にまで手が回らない……ということになりかねません。活用されないデータが溜まっていくだけならまだしも、何らかの原因でシステムが止まっていることに何か月も気づかないようなこともあります。業務の押し付け合いにならないように、また、メーカーとスムーズにやり取りができるように、予め担当者を決めておくことをお勧めします。

● 情報をどこまで求めるか
撮影条件や線量情報が記載された、装置が出力するRDSRというDICOMファイルがあります。それを使って線量管理を行うことが関連団体により推奨されていますが、より多くの情報を利用したいのであれば、オーダ情報を持つ電子カルテやRISと接続しなければなりません。そうすることによりオーダ単位での集計ができますし、撮影の依頼医師や依頼時のコメント、撮影技師などの情報も得られます。
ただし、それには費用が発生することを忘れてはなりません。本当にその情報は必要なのか、それが無いと適切な線量管理ができないのかを熟慮する必要があります。必須なものの例としては、患者の体重が挙げられます。これが無いとDRLプロトコルとの比較などができないのですが、RDSRに記載されていない場合も多くあります。そうなると費用をかけてでも他システムと接続し、情報を取得する必要が生じます。
それ以外に考えなくてはならないのは、装置との接続費用です。RDSRを取得する方法は大きく二種類あります。一つは装置から直接RDSRを受け取るもの、もう一つはPACSなどのRDSRを保存しているサーバから取得するものですが、それぞれメリットデメリットがあります。前者のメリットはリアルタイムにデータを取得できること、デメリットは接続費用がかなり嵩むことです。後者は接続本数が最小限で済むので接続費用は少なく済みますが、患者への説明のためにリアルタイム性を求めるのであれば、この方法はとれません。また、そもそもRDSRに対応していないPACSもまだ存在します。このように、さまざまなことを考慮に入れてシステムを構築していく必要があります。

4.線量管理システムの今後

線量管理システムは以上のような機能をもち、管理のための材料を提供しますが、日本における線量管理は歴史が浅く、その材料を生かす決まった手法がまだありません。そのため、施設や人により、求める理想やそれを現実化する手段が異なるのが現状です。それに対してシステム側が個別に対応することは現実的に不可能であるため、ユーザーは不自由を感じることがあるかもしれません。また、日本ではまだ施設ごとの線量記録が主流です。ですが医療が患者のためのものである以上、将来的には施設をまたいだ患者個人の被ばく線量の記録・管理をしなければなりません。National DBの構築という話もありますし、医療現場でもそういった声は大きくなってきていますが、医療施設側もシステム双方も対応にはしばらく時間がかかりそうです。ですが、どんなシステムにもこのような時期はあります。今後も医療現場・メーカーが互いに協力し、より良いものが作り上げられることが期待されます。

最終更新日:

back to page top