用語・技術解説

薬機法とは?

薬機法とは?

「薬機法」は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略称です。1960(昭和35)年に制定された「薬事法」は、2014(平成26)年の改正時に法律名も変更され、現在の名称になりました。

薬機法の規制対象は、「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」「体外診断用医薬品」「再生医療等製品」です。それぞれ人用と動物用がありますが、「化粧品」のみ人用はあって動物用はありません。また「医療機器」には、ハードウェアだけでなく、ソフトウェア(単体プログラム)も含まれます。弊社は医療機器を取り扱っているため、ここでは主に人用の「医療機器」についてご説明します。

薬機法の規制範囲は、「開発・治験」「承認審査」「製造」「流通」「使用」の各段階はもちろんのこと、「広告」に至るまで厳しく定められています。

「承認」と「許可」がある?

薬機法に関する許認可等には、大きく分けて、「承認」と「許可」があります。
「承認」は製品ごと、「許可」は拠点ごとに取得します。ここでは、分かりやすくするために、例外を省いて、原則を中心にご説明します。

「承認」とは?

「承認」は、法律用語で、一定の行為または事実の存在を、行政機関が承諾または肯定することをいいます。

新型コロナに関連するニュースで、ワクチンや治療薬の「承認」というフレーズを耳にしたことがあるのではないでしょうか?医薬品や医療機器を市場へ出すためには、製品(品目)ごとに、製造販売業者が所管省庁へ承認申請し、承認審査を受けて、最終的に承認を得る必要があります。

実は細かく言うと、「承認」と一口に言っても、「承認」だけでなく、「認証」「製造販売届」もあります。ざっくり言うと、新医療機器は「承認」に該当し、後発医療機器はクラス分類によって「承認」「認証」「製造販売届」に分かれます。

ちなみに、クラス分類というのは、リスクに応じて医療機器を4つのクラスに分類したものです。通称「クラス分類告示」によって、定められています。
「クラスⅣ」は不具合が生じた場合に生命の危険に直結するおそれのあるもので、具体例としてはペースメーカ、人工心臓弁、ステントグラフトなどがあります。
「クラスⅢ」は人体へのリスクが比較的高いと考えられるもので、たとえば透析器、人工骨、人工呼吸器などがあります。
「クラスⅡ」は人体へのリスクが低いと考えられるもので、例としてはMRI装置、電子内視鏡、消化器用カテーテル、超音波診断装置、歯科用合金などがあります。
「クラスⅠ」は人体へのリスクが極めて低いと考えられるもので、体外診断用機器、メス・ピンセットなどの鋼製小物、X線フィルム、歯科技工用用品など多岐にわたります。

いわゆる「高度管理医療機器」というのは「クラスⅣ」および「クラスⅢ」、「管理医療機器」は「クラスⅡ」、「一般医療機器」は「クラスⅠ」をさしています。このリスクに応じたクラス分類によって、医療機器の規制の程度は異なり、弾力的に運用されています。

窓口も、このクラス分類によって異なります。「クラスⅢ」「クラスⅡ」のうち、厚労省が認証基準を定めて指定した高度管理医療機器および管理医療機器のみ、厚労大臣の登録を受けた第三者認証機関(以下、登録認証機関)へ認証申請します。現在、登録認証機関は全国に11機関あり、法人形態は株式会社、一般財団法人、公益財団法人などさまざまです。認証基準が定められていない「クラスⅣ」「クラスⅢ」「クラスⅡ」は承認申請、「クラスⅠ」は製造販売届出を、厚労省の外郭団体である「独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)」に対して行います。

「承認」等を得た後も、行うべき手続きはたくさんあります。医療機関が医療機器を保険診療で使用できるようにするためには、あらかじめ製造販売業者が厚労省で「保険適用」手続きをしておく必要があります。医療機器を輸入したり輸出したりするためには、製造販売業者がPMDAへそれぞれ届出します。製品の承認等の内容に変更が生じた場合には、変更の度合によって「軽微変更届」または「一部変更承認申請」します。製品の製造販売をやめる場合には「承認整理届」、相続または合併等により承認を引き継ぐ場合には「承認承継届」が必要となります。ちょっと変わったところでは、輸出相手国の政府から厚労省発行の「証明書」を求められる場合があります。その際は、特定非営利活動法人海外医療機器技術協力会(以下、OMETA)で「証明書発給申請」します。

 医療機器の分類と規制

(出典:厚生労働省)

「許可」とは

「許可」は、法令などにより一般的に禁止されている行為を、特定の場合に解除する行為のことをいいます。

医療機器を勝手に製造したり販売したりすることは、禁止されています。企業が行政機関へ許可申請し、審査を経て許可がおりた場合のみ、医療機器を製造したり販売したりすることができるのです。

許可を受ける業態の種類には、「製造販売業」「製造業」「販売業・貸与業」「修理業」があります。これらの中から、企業は自ら行う業態の許可申請をします。同一法人であっても、拠点ごとに許可を受ける必要があります。ひとつの拠点がひとつの業態の許可のみ受けているケースもあれば、弊社のようにひとつの拠点が全業態の許可を受けているケースもあるでしょう。また同一法人に、たとえば修理拠点が複数ある場合は、それぞれの拠点が修理業の許可を受ける必要があるのです。申請先は、業態によって異なります。「製造販売業」「製造業」「修理業」については都道府県、「販売業・貸与業」については区市町村の保健所となっています。

許可証には、有効期間が定められています。「製造販売業」「製造業」「修理業」は5年間、「販売業・貸与業」は6年間です。許可を継続するためには、有効期限が到来する前に、許可更新申請をします。その業態をやめる場合は、たとえ有効期限が切れていたとしても、「廃止届」を提出する必要があります。

許可申請または許可更新申請を受け付けた行政機関は、書面調査のみならず、立入調査も実施しています。

・「製造販売業」
ちょっと注意が必要なのは、「製造販売業」というのは、決して「製造業」と「販売業」を合体させた、その両方を行う業態ではないということです。「製造販売業」は、製造業から独立して、製品ごとに所管省庁から承認を取得して、市場へ出荷する行為のみを行う業態であり、製造行為をすることはできません。「製造業」に対する管理体制を含めて、製造管理および品質管理から、市販後の安全管理(副作用・不具合等報告、回収含む)に至るまで、製品の全責任を負うのが「製造販売業」です。以前は「製造業」がこれらの重責を担っていましたが、2005(平成17)年以降は旧薬事法で新設された「製造販売業」がこの重責を担うようになりました。

・「製造業」
「製造業」というフレーズからは、いわゆる組立てや試験、出荷だけをイメージしがちです。しかし、設計や開発、滅菌、日本語の銘板の貼付、最終製品の保管なども、製造行為に含まれるため、「製造業」の許可が必要です。以前はこの「製造業」が、承認申請をし、製品を市場へ出す全責任を負っていて、一貫製造が基本でした。しかし2005(平成17)年以降は、旧薬事法で新設された「製造販売業」がこの重責を担うようになり、「製造業」は製造行為のみに注力できるようになりました。「製造販売業」は、製造を柔軟にアウトソーシングできるようになったのです。以前は「製造業」が許可制でしたが、2014(平成26)年から登録制へと緩和されました。ちなみに「製造業」は、自ら製造した製品を修理することはできますが、承認の廃止手続き(正式名は「承認整理届」)をした製品を修理することはできません。自ら製造した製品であっても、廃止後の製品を修理するためには、別途「修理業」の許可が必要になります。また「製造業」であっても、製造工程のうち設計または最終製品の保管のみを行う製造業者については、そもそも修理をすることができません。

・「修理業」
「修理業」は、医療機器の故障・破損・劣化した箇所を本来の状態に戻す場合や、故障の有無に関わらず解体のうえ点検し劣化部品の交換を行うオーバーホールを行う場合に、必要となります。清掃、校正(キャリブレーション)、消耗部品の交換等の保守点検は、修理に含まれないため、「修理業」の許可は必要ありません。また、修理業者を紹介する行為のみでは、「修理業」は不要です。ただし、他社へ委託することにより修理を行わない場合であっても、修理契約を行う場合は、「修理業」の許可が必要です。仕様変更のような改造は、修理の範囲を超えるため、別途「製造業」の登録が必要となります。

・「販売業」「貸与業」
「販売業」は医療機器を販売する場合に、「貸与業」は有償・無償を問わず医療機器をリースしたりする場合に、許可や届出が必要となります。医療機器はリスクに応じて「高度管理医療機器」「管理医療機器」「一般医療機器」に分類されています。それらのうち、特に保守点検や修理などに専門的な知識と技能を必要とするものを、「特定保守管理医療機器」といいます。「高度管理医療機器」「特定保守管理医療機器」を取り扱う場合は許可申請、「管理医療機器」を取り扱う場合は届出が必要です。「一般医療機器」を扱う場合は、許可・届出とも不要です。申請窓口は、以前は都道府県でしたが、現在では区市町村の保健所となっています。
 医療機器のクラス分類、承認と許可

(出典:厚生労働省)

「品質マネジメントシステム(Quality Management System)」って?

「品質マネジメントシステム(以下、QMS)」というフレーズを耳にしたことはありますでしょうか?なじみのない方にとっては、ちょっと具体的にイメージしづらいかもしれません。QMSは、組織運営のルールや仕組みをさしています。

最も一般的な規格はISO9000シリーズですが、薬機法ではさらに厳しい品質マネジメントシステムを構築し維持することが定められています。たとえば医療機器については、厚生労働省が通称「QMS省令」を定めているほか、類似の国際規格としてISO 13485、国内規格としてはJIS Q 13485があります。

これらの法令や規格にしたがい、製造販売業者は製造管理および品質管理ならびに製造販売後安全管理に関する「文書」「記録」を体系的に用意する必要があります。「文書」「記録」は、業態ごとおよび製品の種別ごとに保管期間が定められています。

こうした体系的な文書を含め、企業が構築し運用しているQMSを、行政機関等は定期的に調査しています。どういうタイミングで調査するのかというと、企業が行政機関等へ「適合性調査申請」したときです。医療機器の承認申請時および承認取得後も5年を超えない周期で定期的に、企業は行政機関等へ「適合性調査申請」をすることが定められています。申請を受け付けた行政機関は、書面調査のみならず、実地調査(立入調査)を実施することによって、製造販売業者がQMSを構築し適切に運用しているかどうかを確認しています。これに加えて、承認品目でない認証品目の場合は、年1回の頻度で登録認証機関によるサーベイランスがあり、QMSの実地調査(立入調査)が実施されます。

さらりと書きましたが、このQMSの構築と運用こそが、企業にとって最も大きなハードルかもしれません。「許可」や「承認」が申請の担当部門および担当者レベルで対応できる内容であるのに対して、QMSは多くの部門を巻き込んで全社レベルで対応していかなければならない内容だからです。

QMSを導入するということは、組織運営のルールや仕組みを構築するということに他なりません。法令や規格の要求事項を満たす形で、その会社にふさわしい体制を確立するわけです。最も大変な山場は、組織全体を巻き込んだ、膨大な量の文書化作業ではないでしょうか?責任と権限を明文化し、ルールや手順を文書化し、記録を残すための定型様式をつくる。これには大変な労力と時間を要します。しかも文書化作業があるからといって、組織の通常業務を滞らせるわけにはいきません。一時的に仕事が増えることや、今までのやり方を変えることに、抵抗を示す人たちもいるでしょう。QMSと無縁だった会社にとって、これは大きな負担であることには違いありません。場合によっては、外注する企業もあるのかもしれません。しかし、産みの苦しみを経て、いったんQMSを確立して運用を始めると、組織はQMSにもとづいて慣性の法則で動くようになります。その後は、QMSを定期的に自己点検し、必要に応じて改善し、法改正にともない変更し、適切に維持していけばよいのです。

プログラム(ソフトウェア)も医療機器?

旧薬事法では、ソフトウェアのみの形は規制対象外であり、ソフトウェアをハードウェアへ組み込んだ形で規制していました。しかし欧米では、ソフトウェアすなわち単体プログラムも、すでに医療機器として位置づけられていました。国際整合性に鑑み、2015(平成25)年の薬機法改正により、単体プログラム、または、これを記録した記録媒体(以下、プログラム医療機器)も規制対象となったわけです。

この規制強化により、激震が走ったのは医療ソフトウェア業界です。医療機器に該当するプログラムを開発している会社から、そのプログラムを記録した記録媒体を最終製品として保管している会社に至るまで、都道府県へ医療機器の製造業の登録をしなければならなくなったからです。場合によっては、最も責任が重い業態である製造販売業の許可を取得して、ソフトウェア製品の承認申請をしなければならなくなった会社もあるでしょう。薬機法と無縁だった会社が、製造業や製造販売業の許可申請をし、都道府県による書面調査や立入調査を受け、最終的に登録証や許可証を取得しなければならなくなったわけですから、戸惑ったであろうことは容易に想像できます。しかも、製造販売業では品質マネジメントシステムが求められますし、製造業もその品質マネジメントシステムの一環として設計管理ならびに製造管理および品質管理を求められます。プログラムの製造販売業者も製造業者も、多くの文書や記録を用意しなければならなかったことでしょう。

そこで気になるのは、どういうプログラムが医療機器に該当するのか?ということです。自社が扱うプログラムが医療機器に該当するかしないかが、薬機法の厳しい規制の対象になるかどうかの分かれ目なわけですから、どのように該当性を判断するかが気になるのは当然のことです。医療機器の該当性については企業が判断に迷うところであり、その判断の指標となる通知が厚労省から発出されています。「プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインについて」という通知です。その通知には「医療機器に該当するプログラム」と「医療機器に該当しないプログラム」それぞれの事例が記載されています。下記に、おおまかな事例を紹介します。

医療機器に該当するプログラムの事例

  1. 入力情報をもとに、疾病候補、疾病リスクを表示するプログラム
  2. 疾病の診断・治療・予防を意図したプログラム
    1. 医療機器で得られたデータ(画像を含む)を加工・処理し、診断または治療に用いるための指標、画像、グラフ等を作成するプログラム
    2. 治療計画・方法の決定を支援するためのプログラム(シミュレーションを含む)
    3. 医療機器の制御を行うプログラム、または、医療機器データの分析を行うことを目的として、医療機器に接続して医療機器の機能を拡張するプログラム
  3. 有体物の医療機器とセットで使用するプログラム

医療機器に該当しないプログラムの事例

  1. 個人での使用を目的としたプログラム
    1. データの加工・処理を行わない(表示、保管、転送のみを行う)プログラム
    2. 運動管理等の医療・健康以外を目的としたプログラム
    3. 利用者への情報提供を目的としたプログラム
  2. 医療機関が使用することを目的としたプログラム
    1. 医療関係者、患者等への医学的判断に使用しない情報提供のみを目的としたプログラム
    2. 院内業務支援、メンテナンス用プログラム
    3. データの保管、転送のみを行うプログラム
    4. 診断、治療以外を目的とした、データ加工・処理を行うプログラム
    5. 診断・治療ガイドライン等に従った処理のみを行うプログラム
  3. 一般医療機器(クラスⅠ医療機器)と同等の処理を行うプログラム(機能の障害等が生じた場合でも人の生命および健康に影響を与えるおそれがほとんどないもの)

それでは、プログラムに対する規制が始まった2015(平成25)年以来、日本には、医療機器に該当するプログラムがどのくらいあるのでしょうか?
2022/11/25現在、医療機器に該当するプログラムは、一般的名称数(*1)にして185、製品数(*2)にして543が、日本市場で流通しています。

(*1)
2022/11/25時点のPMDAホームページで公開されている「医療機器の一般的名称等一覧(2022/10/11更新」」によると、厚労省が定めた「一般的名称」のうち、プログラムに分類されている「一般的名称」の数を確認した結果、「疾病診断用プログラム」は167、「疾病治療用プログラム」は18、「疾病予防用プログラム」は0、合計は185でした。

(*2)
2022/11/25時点の公益財団法人医療機器センター(以下、JAAME)が提供している会員制DB「JAAME Search」によると、企業がプログラムとして承認または認証を取得した製品数を確認しました。その結果、「疾病診断用プログラム」は439、「疾病治療用プログラム」は104、「疾病予防用プログラム」は0、合計は543でした。

「医療機器プログラム」と「プログラム医療機器」はちがう?

驚くべきことに、薬事行政では「医療機器プログラム」と「プログラム医療機器」が明確に区別されています。このことは、前述の厚労省通知「プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインについて」にも明記されています。

「医療機器プログラム」は、プログラム単体で流通するものをさします。
「プログラム医療機器」は、プログラム単体に加えて、プログラムを記録した記録媒体を含むものをいいます。

いずれも薬機法の規制対象ではありますが、プログラムの提供形態が異なります。「医療機器プログラム」は、ダウンロード販売などを想定したものでしょう。一方で「プログラム医療機器」は、プログラムを記録した記録媒体を提供することを想定しています。

承認申請書等には、プログラムの提供形態や使用方法も記載することが求められています。「医療機器プログラム」として単体プログラムをオンライン上でダウンロードさせることによって提供するのか、「プログラム医療機器」としてプログラムを記録した記録媒体を提供するのか、または旧薬事法下から運用されてきたようにプログラムを有体物の「医療機器」に組み込んで提供するのかを明記することになります。

人用と動物用では所管省庁が異なる?

薬機法は、人用の医療機器だけでなく、動物用の医療機器も規制対象としていることは、すでに述べました。たとえ同じ医療機器であっても、使う対象が人か動物かによって、所管省庁が異なります。人用の医療機器は厚労省の所管であり、動物用の医療機器は農水省の所管です。医療機器を使う対象によって、それぞれ所管大臣の許認可等を取得する必要があります。人と動物の両用の医療機器を市場へ出す場合は、厚労大臣と農水大臣の両方の許認可等が必要になります。

では、同じ医療機器なのだから、同じ承認申請書を、厚労省と農水省それぞれの窓口へ提出すればよいのかというと、そうではないところが大変手がかかるところなのです。

薬機法という「法律」のもと、人用の医療機器については、厚労省が定める命令(「省令」「告示」「規則」など)により運用されています。一方で、動物用の医療機器については、農水省が定める命令により運用されています。縦割り行政の常として、両者の命令は統一されているわけではありません。同じ医療機器であっても、厚労省と農水省では、一般的名称も、定義も、クラス分類も異なります。同じ法律なのだから、同じ分類であってもよさそうなものですが、運用ルールは省庁ごとに異なるのです。

たとえば「コンピューテッドラジオグラフ(以下、CR)」という医療機器を例に取り上げてみましょう。CRとは、イメージングプレート(光輝尽性蛍光板)に蓄像したX線画像を、レーザービームなどの走査で取り出し、コンピュータで処理し、デジタル情報として出力する装置です。このデジタル情報は、画像処理装置、画像記録装置などに伝送され、診断画像として用いられます。

このCRを、人を対象に使用する場合は、厚労省管轄です。「一般的名称:コンピューテッドラジオグラフ」「クラスⅡ」「管理医療機器」「特定保守管理医療機器」として、厚労大臣の登録を受けた第三者認証機関へ認証申請し、審査を受け、最終的に認証を取得します。登録認証機関制度が導入された2005(平成17)年より以前は、承認申請する必要がありました。

一方で、動物を対象に使用する場合は、農水省管轄です。「一般的名称:診断用画像処理装置」「一般医療機器」として、農水省の動物医薬品検査所(以下、NVAL)へ製造販売届出をします。クラス分類が変更された2014(平成26)年より前は、「管理医療機器」として承認申請する必要がありました。

一般的名称やクラス分類は各省の定めどおりに記載し、それ以外は全く同じ内容の申請書を厚労省と農水省へ提出したところ、どんな指摘事項があったのか一例をご紹介しましょう。

厚労省では承認申請書に「患者」と記載していたところを、農水省では「患畜(かんちく)」という表現へ改めるように指摘事項がありました。承認申請書、取扱説明書、医療機器のディスプレイ画面表示など、「患者」と表記されているすべてが対象です。動物医療業界に不慣れだった当時は、耳慣れない「患畜ID」「患畜名」という文言への修正や、UI変更ために医療機器のソフトウェアの修正や再試験へと至ったプロセスに、大いに衝撃を受けたものでした。

薬機法の変遷

薬機法は、今でも頻繁に改正されています。改正の多くはマイナーチェンジとも言えるものですが、過去には約10年ごとに抜本的な大改正がありました。

2002(平成14)年の法改正では、社会問題へと発展した薬害被害への反省から、薬事制度が抜本的に見直され、安全対策が大幅に強化されました。これにより、「医療用具」から「医療機器」への呼称変更に始まり、国際的クラス分類や各種基準(GCP・GVP・QMS)の導入、生物由来製品の規制強化、製造販売業という業態の新設、医療機器の認証制度の導入、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の設立へとつづいていきます。

2014(平成26)年の法改正では、「薬事法」から「薬機法(略称)」へと法律名が変更されたことは、前述のとおりです。医薬品とは別に医療機器が章立てされ、医療機器の特性を踏まえた規制が構築されました。このとき、「医療機器プログラム」も規制対象になりました。医療機器の「製造業」は許可制から登録制へと緩和され、「賃貸業」は「貸与業」へと呼称変更されました。

東京都の申請窓口の歴史

東京都の「許可」申請窓口は、都の出先機関である「東京都健康安全研究センター」です。都道府県庁ではなく、その出先機関が「許可」の事務を行っているのは、現在のところ東京都だけでしょう。他の道府県では、道府県庁内の薬務課が窓口となっています。実は東京都でも、2012(平成24)年より以前は、「許可」の申請窓口が、出先機関ではなく、都庁第一庁舎内の薬務課でした。そして驚くべきことに、PMDAが設立される2006(平成16)年より以前は、「承認」の申請窓口も、都庁第一庁舎内の薬務課でした。つまり「許可」と「承認」の両方の申請窓口を、都道府県が担っていた時期があったのです。このことを知っている申請担当者は、今となっては、とても少ないのではないでしょうか?

「許可」と「承認」の両方の申請窓口を担っていた頃の薬務課には、毎日多くの企業の申請担当者が詰めかけるため、都庁の中でも広いスペースが割り当てられていました。順番待ちの札箱から番号札を取って、ぎっしりと人で埋め尽くされた椅子に座り、長時間じっと順番待ちをするのが常でした。今ほどオートメーション化された効率的な順番待ちシステムはなかったものの、困っている事業者に対して親身に相談にのってくれたり、スムーズに進むようにサポートしてくれたり、困難を乗り越えたときはともに喜んでくれたりと、地域に密着した自治体ならではのハートフルな一面もありました。

さて、東京都庁が、西新宿にあり、建築家の丹下健三氏の設計によるものであることは有名です。パリのノートルダム大聖堂をモチーフにしたといわれる個性的な外観は、東京のランドマークにもなっています。注文建築の常として、雨天時に雨漏り受けのバケツが都庁内のあちこちに置かれているのも、梅雨や台風シーズンの都庁の風物詩といえるものでしょう。

一方で、都の出先機関である「東京都健康安全研究センター」がどこにあるのか知っている方は少ないのではないでしょうか?JR山手線「新大久保駅」とJR中央・総武線「大久保駅」の間の、新宿区百人町(ひゃくにんちょう)に位置しています。ホームページに公開されている交通案内図には、「新大久保駅」「大久保駅」それぞれからの進路が示されています。「大久保駅」からホームページの進路表示どおりに進むと、以前は隠微なホテル街を通過することになり、同行者と少し気まずい思いをしたものです。現在は、より通過しやすい街並みになっています。

最終更新日:

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